身近なカマスには多くの料理法がある
カマスは、とてもなじみ深い魚です。鮮魚でもよく見かけますし、干物なら一年を通して必ずあります。でも、なじみ深いからこそ、いつも同じ食べ方になっていませんか。どの魚もそうですが、ちょっとした工夫やひと手間を加えることで、料理の味はぐんとおいしいものになります。ここでは、「ひと手間かけて、おいしい料理に」の視点から、おすすめの食べ方を3つ、ご紹介します。どれもがメジャーな食べ方ですが、ちょっとの手間で、まるで別の魚のような旨みたっぷりのおいしい仕上りになりますので、きっと驚かれると思いますよ。
カマスには二種類ある
カマスには、2種類があることをご存じですか。ホンカマス(アカカマス)とヤマトカマス(クロカマス)がそれで、ホンカマスは寿司ネタや刺身に珍重される一方、ヤマトカマスはやや水っぽいため、干物に多く使われます。しかし、そうした差は、鮮度や料理法で十分カバーできますので、どんどんおいしい料理を楽しんでいきましょう。
カマスの良しあしの見分け方
ホンカマスとヤマトカマスの見分け方
まず、ホンカマスとヤマトカマスの見分け方ですが、背ビレと腹ビレをたてに結んだ線が頭に向かって斜め下前になるのがホンカマス、ほぼ垂直なのがヤマトカマスです。ホンカマスは、腹ビレが背ビレより少し前に付いているので、ここで見分けられます。また、体の色が黄色っぽいのがホンカマスです。ヤマトカマスは、別名クロカマスと呼ばれるように、ややウロコが黒っぽいです。
鮮度の見分け方
鮮度は、目とウロコとエラの色で判断します。目は澄んで透明なもの、ウロコはちゃんと残っているもの、エラの色は鮮紅色のものが、鮮度が良いです。特にエラは、鮮度が落ちるとピンク色になりますので、すぐにわかります。
料理に入る前に
どんな魚料理でも、料理の前の下ごしらえが、その出来栄えを大きく左右しますので、ひとつひとつをしっかりと行い、おいしい料理に仕上げましょう。
ウロコ取り
魚のウロコ取りは、なかなか面倒な作業です。でも、カマスのウロコは小さい上に固いので、口に入ると気になりますから、じっくり ていねいに取り除きましょう。
ウロコ取りのひと手間
- 背ビレ、胸ビレ、腹ビレなどのヒレの根元、そして尾ビレの前は、どうしてもウロコが取りにくい部分です。こうした部位は、ウロコ取りではなく、包丁の先でていねいに落としましょう。
さばき方
刺身のときのさばき方
刺身で食べる場合は、三枚下ろしにします。カマスの場合は、大名下ろしでもかまいません。
干物のときのさばき方
干物にするときは、片袖開きにします。片袖開きとは、頭を残して背中から開く方法です。さばき方は、頭を左に向けて、エラブタに沿って肩の中骨まで切り込みます。次に、肩から中骨に当たるまで包丁を入れ、そのまま中骨に沿って、尾ビレまで切り開きます。ここで包丁の向きを持ち替えて、腹骨と中骨を切り離してから、また包丁の向きを変えて、腹の後ろから尾ビレまで中骨の下側に包丁を入れて開いていけば、片袖開きができあがります。エラと内臓は、一緒にちぎり取り、中骨に残っている血ワタは、歯ブラシなどできれいに取り除きましょう。最後に、水洗いをして残っている血を落とし、キッチンペーパーなどで水気をよく取ります。
さばく時のひと手間
- カマスの血合骨は、小さい割りに固いので、残っていると食感を損ないます。特に刺身では、とても気になりますので、骨抜きで確実に取りましょう。また、骨を抜く時は、頭の方向に向けて引っ張らないと身割れしますので、注意してください。
臭みの取り方
カマスの臭みは、粗塩で取ります。生で食べる刺身の場合も、加熱して食べる場合でも、必ず臭みを取りましょう。
臭み取りの手順
下ろした場合は、身の皮目側に軽く粗塩を振り、キッチンペーパーをしっかり密着させて、冷蔵庫で約2時間寝かせます。このあとは、塩を軽く水で流して、水気をしっかりとふき取ります。一本の場合は、全身に塩をまぶして、これも30分ほど冷蔵庫で寝かせた後、身に付いた塩を洗い流し、水気をふき取ります。
なぜ、臭みが消えるのか
- 塩が、身の余分な水分と一緒に皮下の脂の臭みも吸い出しますので、それをキッチンペーパーに吸わせます。この処理で、身は締まり、臭みも消えます。
- 特に、生で食べる刺身の場合は、このひと手間は必ず行いましょう。
カマスのおすすめ料理3選
カマスの料理法ですが、ここでは和風の食べ方をご紹介します。和風料理は難しいと思われるかもしれませんが、手順がわかれば簡単です。鮮度の良いカマスを生でおいしく食べるには、また加熱をする場合でも、やはり和風での食べ方が、この魚にはいちばん合います。
カマスのおすすめ料理①:刺身
カマスを生で食べた経験のある方は少ないと思いますが、鮮度が良ければホンカマスはもちろん、ヤマトカマスもおいしい刺身になります。ここでは、焼き霜造りと湯霜造りという、ひと手間かけた刺身の料理法をご紹介します。普通 生で食べる場合皮を引きますが、カマスは皮の下の脂身に旨みがあるので、皮を活かした食べ方です。どちらも、皮のコリッとした食感と旨み、そしてプリッとした生の身がおいしい食べ方です。
焼き霜造り(焼き切り)
焼き霜造り(焼き切り)とは、皮目を火で炙り、皮とその下の脂身に熱を入れて食べやすくするとともに、皮の持つ生臭さも取り除く方法です。皮の表面が少し焦げ気味くらいにあぶると香ばしくなり、皮下の脂身も溶けてちょうど良い具合になります。その手順は、三枚に下したカマス、トーチバーナー、氷水を用意し、皮目を上にバットなどの燃えない材料にカマスを入れ、トーチバーナーで皮目にうっすら焦げ目がつくくらいにあぶります。焦げ目がつきましたら、手早く氷水の中に入れて、身を締めます。氷水の中で身がキュッと締まりましたら取り出して、クッキングペーパーで水気をよくふき取ったあと、新しいクッキングペーパーで包み、2~30分程度 冷蔵庫で休ませます。この後は、普通に切って盛りつければ、カマスの焼き霜造りの完成です。
焼き霜造りのひと手間
- 炙る前に、金串などで皮目にいくつか穴を開けておいてください。こうすると、炙られた皮が縮む際に余裕が出来ますので、皮が引きつれず、きれいに仕上がります。これを『針打ち』と言います。
湯霜造りも同様ですが、焼き霜造りは皮目に熱を加えることで、皮が柔らかくなり、その下の脂の臭みも消え、生の身の食感も良くなると、いいことづくめの料理法なのです。カマスの刺身ならば、焼き霜造りと湯霜造りで仕上げることが、絶対のおすすめです。
湯霜造り(湯引き)
湯霜造りは湯引きとも呼ばれますが、応用の範囲が広いですので、ぜひ憶えてください。これは、熱湯で皮目に熱を入れることで、身を締め、脂の臭みも取る方法で、鯛などにも応用できます。その手順は、ます沸騰した熱湯と氷水を用意します。まな板などに三枚に下した身を並べ、それにふきんかキッチンペーパーをかぶせたら、皮目の部分に沸騰した熱湯をかけ回します。湯の熱で皮目が一瞬で縮まりますので、それを手早く氷水に入れて身を締め、粗熱を取ります。そのあとは、焼き霜造り同様、水をよくふき取ってから新しいクッキングペーパーで包み、2~30分程度 冷蔵庫で休ませます。この後は、普通に切って盛りつければ、カマスの湯霜造りの完成です。見栄えからすれば焼き霜造りがおすすめですが、湯霜造りは手軽にできますので、ぜひ試してみてください。
熱湯をかける時の注意
- 熱湯は、できるだけ皮目を狙ってお湯をかけていただき、身には熱を入れないようにしましょう。
カマスのおすすめ料理②:干物
干物は、特にヤマトカマスに向いた食べ方です。生では水っぽいヤマトカマスの身も、干すことで水っぽさと臭みが抜けて、しっとりとした上品なおいしさのひと品に仕上がります。作り方は、前に解説した片袖開きにさばき、腹をよく掃除して水気をきれいに取ったあと、8%前後の塩水に2~30分 漬けます。身が締まり、目が白く濁ってきましたら、塩が十分に入った証拠ですので、塩水から上げて軽く水洗いをし、水気をしっかり取ってから、ラップを軽くかけて、冷蔵庫で一晩(6~8時間)寝かせます。翌日、風通しの良い日陰で8時間くらい干せばでき上がりますので、晩ご飯に出来立てのおいしい干物を楽しむことができます。
干物を作る時のひと手間
- 冷蔵庫で一晩寝かせるのは、熟成のためです。この工程を入れることで、旨み成分が身の全体に回るのと、生臭さも弱くなり、おいしい干物になっていきます。
カマスのおすすめ料理③:塩焼き
カマスの食べ方としては、塩焼きが最も一般的でしょう。でも、ここでもひと手間加えることで、味が驚くほどよくなります。塩焼きの場合のさばき方は、ウロコとエラ、内臓を取り除いた、一本のままでけっこうです。さばきましたら、身と腹の水気をしっかりとふき取り、全身に塩をまぶして30分ほど置いて、水分と臭みを取ります。この塩を流して水気をしっかりと取った後、みりんと日本酒を1:1で合わせたものをハケでカマスの全身に塗り、身の表側には飾り包丁を、裏側には隠し包丁を施し、火の通りを良くしておきます。最後に、全身に塩をまぶします。この時、焼き上がりをきれいにするために、それぞれのヒレに化粧塩を施してください。薄いヒレは、そのままですと焦げて落ちてしまいますので、ヒレが真っ白になるくらい、しっかりと塩をつけてください。
あとは、焼いていくだけです。中火よりやや弱めで、じっくりと焼いてください。みりんを塗ってありますので焦げやすいですから、気をつけてください。
おいしい塩焼きのためのひと手間
- みりんと日本酒を合わせたものを塗るのは、みりんの糖分と日本酒のアルコール分で、焼き上がりをふっくらとしたものにするためです。
- 化粧塩を施しておくと、ヒレが焦げて落ちてしまうことなく、焼き上がりがきれいに仕上がります。
幽庵焼き
焼き魚には、幽庵焼き(ゆうあんやき)という料理法もあります。しょう油・みりん・日本酒を同量合わせた漬け汁にゆずの輪切りを数枚入れて、幽庵地を作ります。これに三枚に下したカマスを30分ほど漬けます。漬け汁から引き揚げたら、汁をよくふき取り、中火で焼いていきます。ある程度火が通ったら、ハケで漬け汁を何度か塗って、良い色目に仕上げます。また、画像にあるように、金串を打って焼きますと、料亭の仕事のような本格的な雰囲気に仕上がります。
小さいサイズはどう食べる
小さいサイズのカマスは、刺身にするのはきびしいですので、小さくても料理としてサマになるのは、丸一本で食べる塩焼き、もしくは干物が良いでしょう。今回はご紹介していませんが、天ぷらやフライも、頭を落として開いた身を丸々使えますので、小さいサイズでも見劣りしないボリュームになります。このように、小さいサイズのカマスも、しっかりとおいしく食べてられる工夫をしましょう。
上品な白身のカマスを、ひと手間かけて美味しく食べよう
いかがでしたか。俄然、カマスを刺身で食べたくなってきませんか。そして、自家製カマスの干物を作ってみたくなったでしょう。さらに、フライや天ぷら、棒寿司なども、おいしい食べ方です。また、イタリア風やスペイン風でも、いろいろ楽しむことができるのがカマスなのです。もともと上品な味わいの白身魚ですので、少していねいに仕事を施すだけで、そのおいしさは各段に上がります。秋から冬にかけては沿岸を回遊しますので、堤防釣りでも狙えるカマス、この週末に狙ってみてはいかがでしょうか。
出典:flickr - Daishi Naruse